Knock On 34 彼女の絵本のつくり方

2020. 12. 18

KNOCK ON, News,

彼女の絵本のつくり方


 


ヴィクトリア・ソーンへ


愛をこめて


 


32ページの絵本をつくるには、お気に入りの本をもってきてページを数えましょう。何度もくりかえし数えること。本のページ数は8、できれば16で割り切れるようになっています。24ページの本にするのなら、8ページつけ足してそれを見返しにしてもいいでしょう(裏面は表紙と最初のページ、裏表紙と最後のページと貼りあわせます)。


前付けのページも計算に入れておくこと。ページはもっと増やしても減らしてもかまいませんが、本にエネルギーをもたせるには、それにふさわしいかたちにしなければなりません。


本のページを組む作業、テキストをページに割りつける作業は、このうえなく重要です。書くのは、あなたが知らないけれども知りたくてたまらないこと。作者が格闘し、負けて、すべての希望を失ったときになんらかの奇跡によって救われる、そんなテキストでなければ、読んでいても退屈です。


テキストができたら何度も口に出して読み、粗削りなところをならします。鏡の前で自分に向かって暗唱しましょう。


 


本はあなた自身とは切り離された存在でなければなりません。あなたは本の役に立つために力をつくしているのです。


本は世界に出ていかなければなりません。


ちゃんと伝わるようにしてあげてください。本のページを組むのは、むずかしい作業です。


テキストをページに割りつけるまで、絵をつけるのはやめておきましょう。絵がない状態でも、本はものを語らなくてはなりません。


あなたの本には、まさにこれというかたちがひとつあります。それを見つけるのがあなたの務めです。


登場人物たちはどんな見た目をしているのでしょう?あなたの目の前の紙が、登場人物たちの生きる世界です。登場人物はたがいに話をします。口にすることばは、その人たちが思っていることそのままです。登場人物たちの心が、そこにはこめられています。


子どもは子どもっぽいものが好きだなんて、どうしてそんなふうに思うのでしょう?子どもになる方法を子どもに教えるのはやめましょう。子どもはおとなになりたいのです。あなた自身をはるかにこえたところにある何かに手をのばして、それを子どもたちにさしだしてください。はっきりと気づかれることはないでしょうけれど、それは感じとってもらえます。


本を書き終えたら忘れましょう。~の著者、として知られようとは思わないことです。次の本はもっとむずかしくなりますし、それがつづきます。過去の成功をなぞっていたら、成長などできないのですから。


【トンカチより】


このテキストはM・B・ゴフスタインが知人に出した手紙です。絵本のつくりかたについて、彼女の独特な考えが述べられています。彼女は、戦って、負けて、奇跡によって救われる、その過程を見せる事こそが、作品である、と言います。私たちは希望を持って頑張る。けれど必ず負けて絶望する。でも奇跡のように霧が晴れ、やっぱり朝が来る。そんな工程を経てきた作品だけが、強度を失わないのです。あなたは、いつ勇敢に戦いましたか。今も負けて傷ついてボロボロですか。そして何度、奇跡に立ち会ってきましたか。あなたは奇跡なんて起こらないと最初から諦めて、もう負けたくなくて、泣きたくなくて、戦わなくなっていませんか。あなたの存在なんか、はるかに超えたところにあるものにだけに手をのばしなさい。簡単なことや名声や、作ることにやすらぎなんかを求めてはダメです。作ることは、もがき続ける事なのですから。あなたは作ることは「癒し」だなんて思っていませんか。あなたは、誰かに褒めてもらいたがっていませんか。あなたは、特別扱いされたいだけじゃないんですか。彼女の言葉は、絵本という表現に対する、私たちの「やさしい」思い込みを打ち砕きます。打ち砕かれた思いだけが、立ち上がり、歩き出し、奇跡のように、あなたと、出会うことができるのです。